離婚や面会交流に関する文献情報(その5)
ケント・ウインチェスター、ロベルト・ベイヤー著、高島聡子、藤川洋子訳
『だいじょうぶ! 親の離婚』日本評論社、2015年、133頁、1500円。
本書の原書は、親が離婚しようとする(離婚した)子ども向けの、2001年に出版された米国の本である。原著者の二人は引退した弁護士であるが、行動科学の専門家のように、子どもの心の動きを丁寧にとらえた本になっている。訳者は元(現)家裁調査官である。原書には米国人のイラストが使用されているが、訳書では日本人の漫画家によるイラストに入れ替えられている。
「この本は、親が離婚しようとしているときに子どもたちから投げかけられる、よくある質問から成り立っています。それぞれの章は、質問から始まっていますが、その答えはきっと、あなたが今抱えている疑問を解決するヒントになるでしょう。」(8~9頁)と、本書の構成に関して説明している。
具体的には、「離婚するってどういう意味?」、「離婚は、ぼく/私のせい?」、「親に会いたくなったらどうしよう?」など、22の子どもから質問に答える形で、本書を展開している。なお、本書は翻訳のため、米国と社会制度の異なる日本人の読者に対して、「子どものための解説」、「大人のための解説(その1)」、「大人のための解説(その2)」、「訳者あとがき」が付け加えられている。
本書の内容は、親の離婚にともなう子どもの感情の取扱いなど、類書と共通したこともかなり書かれている。例えば、「自分の気持ちを心の奥にしまい込むことは、決して問題の解決にはなりません。あなたがしまい込んだ気持ちは、消えてなくなってしまうことはなく、逆にあなたの心の中で暴れて、あなたをもっと苦しめてしまいます」(18頁)と記している。
原著者は、離婚のもたらす子どもにとって深刻で悲惨な側面よりも、日本語のタイトルに使われているように、「だいじょうぶ!」な側面に焦点を当てているように思われる。「あなたのお母さんとお父さんが、たとえ離婚したとしても、あなたと離婚するわけではありません。あなたの両親は、あなたに対する愛情をなくしたりはしません。いつも、そのことは忘れず覚えておいてね」(13頁)、「あなたの両親の愛情は変わらないということ、あなたにはこれからもお父さんもお母さんもいるということ。たとえ同じ場所には住んでいないとしても、あなたはこれからも両親がいて、家族がいるということ」(23~24頁)と強調している。そのような父母もいるが、離婚を契機に子どもとの関わりを無くしたり減らしたりする非同居親がいることも真実である。いわば、「子どもを捨てる非同居親」への対応策は、本書では弱い。
本書は一部翻訳に疑問を持つ点も存在するが、全体として読みやすく、参考になる点も多い。訳者は「特に小学校の高学年から中学生くらいの子どもに向けて直接書かれた本は少なく、それが、この本を訳したいと思った理由です」(120頁)と語っている。当該年齢層の子どもたちがどれくらい本書を理解し、どのように本書を評価するかをぜひ知りたいところである。
(宮﨑昭夫)