離婚や面会交流に関する文献情報(その11)
宮﨑保成著『面会交流原則的否定論への疑問-親子引き離し弁護士への反論集-』
∞books(ムゲンブックス)、B6判、55頁、2016年、1,058円。なお本書はアマゾンのオンデマンド本である。
本書には著者の紹介部分がないので、インターネット情報で補足しておこう。著者は臨床心理士で、裁判所での面会交流紛争の当事者のようである。このため、本書には面会交流に関連した生々しい記述がかなり含まれている。
本書は『法律時報』2260号(平成27年8月11日号)に掲載された、梶村太市、長谷川京子、渡辺義弘の3人の弁護士の論文に対する、反論集である。3人の論文は「面会交流の原則実施を疑問視する弁護士たちは、面会交流が子どもに好ましくないのは例外的な事案で あるのに、それを一般化してしまうことで誤った結論に至っているように思える」(2頁)と考え、3本の論文に対し個別に反論を書くとともに、三者に共通すると思われる問題点を記したものである。
著者は梶村の論文に対して、17点にわたって検討を加えている。長谷川の論文に対しては、25点にわたって検討を加えている。渡辺の論文に対しては、4点にわたって検討を加えている。紙幅の都合で、これらの論点のすべてに評者としてコメントすることは出来ないので、代表的論者である梶村に関して3点コメントしてみよう。
①梶村は家裁の調停で面会交流の合意をしても、その44%が実施されていないことに関して、実施率を上げる工夫を考えるのではなく、「梶村太市氏は、調停で面会交流を合意しても 実施される確率が低いのだから、調停で面会交流の合意をすべきではないと述べているのだ」(4頁)と、梶村の転倒した論理を指摘している。
②梶村は「十数年前に締結した<子どもの権利条約>を今更のごとく持ち出して原則的実施論を根拠づけようとしても、全く説得力がない」(7頁)と述べている。これに対し著者は、「梶村太市氏は、条約の効力が時の経過とともに低減するとでも言いたいのだろうか」(7頁)と指摘している。評者もかねがね梶村が子どもの権利条約の理念を軽視し、本条約を実務に生かす工夫を求めてこなかったあり方に疑問を抱いていたため、著者の指摘を肯定したい。
③梶村は日本を含む「東アジアの価値観を挙げ、共同親権化・共同監護化には限界があると述べている」(8頁)こ とに対し、著者は「東アジア諸国の親権や面会交流の状況について比較検討しているわけではないのだから、そもそも論じるに値しない」(8頁)と指摘している。念のために評者は梶村の論文にあたってみたが、注等で東アジア諸国の価値観に関する新しいデータは示されておらず、エビデンスではなく、梶村の個人的信念が書かれていることが分かった。
梶村は今までも面会交流に慎重な主張をしており、主張に一貫性がみられるのは良い点かもしれないが、内容的に進化のない同様な主張を、タイトルだけ変えて種々の本や法律雑誌に掲載するやり方は、評者には納得がいかない。
なお本欄で評者は、通常の学術出版物と同様に、人名は敬称略で記している。
(宮﨑昭夫)