離婚や面会交流に関する文献情報(その6) - NPO法人北九州おやこふれあい支援センター
NPO法人親子ふれあい支援センター(通称:こふれ)

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参考文献

離婚や面会交流に関する文献情報(その6)

小川冨之・高橋睦子・立石直子編『離別後の親子関係を問い直す-子どもの福祉と家事実務の架け橋をめざして-』
法律文化社、2016年、A5版、196頁、3,200円+税。

法律、臨床心理、児童精神医学、社会福祉政策論といった、多彩な領域の10人の著者による、Ⅲ部10章からなる面会交流を中心とした離別後の親子関係に焦点を当てた、論文集のような本である。 紙幅の都合で、部のタイトルのみを示しておこう。第Ⅰ部では「離別と親子関係、紛争と葛藤」、第Ⅱ部では「日本の子どもと家族法」、第Ⅲ部では「離別後の親子関係の理想と現実」を取り上げている。 旗幟鮮明な本であり、基本的にはフェミニズムの立場に立つ著者の主張からなる本である。行動科学の領域の論文には、新しい内容も含まれているが、法律家の書いた部分の多くは、 梶村太市・長谷川京子編『子ども中心の面会交流』日本加除出版、2015年、と主張点は変わらず、内容的に進化したとは評価できない。
 例えば、「面会交流は<監護者の監護教育内容と調和する方法と形式において決定されるべき>である」(123頁)という、古式蒼然とした最高裁調査官の考え方が示されている。 評者は面会交流に関わっているが、面会交流などの離別後の親子関係がスムーズに動かない要因はケースによって異なる。 面会親側に問題のあるケースもあれば、監護親側に問題があるケースもある。しかし、本書の基本的トーンは、面会親側の問題ばかりを取り上げ、監護親側の問題を取り上げていない。 離婚後の共同養育に対するネガティブな評価を前提に、わが国における離婚後の非同居親と子どもとの面会交流に関して抑制的な主張がなされている。 初めから結論ありきで書かれている論稿が多く、論理が雑なところもかなり見受けられる。
 本書では離婚に関連する家裁調査官の専門性に関して、印象記的に疑問を述べているが(例えば、111頁)、 その解決策にはふれていない。家裁調査官の専門性に関しては印象で論ずべきことではなく、エビデンス・ベースドで検討すべきことであろう。 最高裁は秘密主義的であり、調査官調査に関する組織的検討が公表される可能性は極めて低い。 このため、弁護士会などで一定数の調査報告書を収集し、組織的に調査官調査のあり方と、 調査報告書の課題を検討すべきではなかろうか。さらには、家裁調査官調査に対する、セカンド・オピニオン制度の導入の是非に関しても検討が期待される。
 なお、リサ・ヤングによる10章の「オーストラリアの家族法をめぐる近年の動向」は、欧米の家族法研究者も注目している、オーストラリア家族法入門として秀逸である。本章は参考になる点が多い。
(宮﨑昭夫)