離婚や面会交流に関する文献情報(その8)
善積京子『離別と共同養育-スウエーデンの養育訴訟にみる子どもの最善-』
世界思想社、2013年、A5版、3,500円+税
福祉国家スウエーデンにおける、離婚(別)とその後の共同養育はどう行われているか本格的に紹介した文献である。本書は裁判例を中心としているが、スウエーデンにおける親子法の変遷や制度的解説も含まれている。1970年以降に限っても、スウエーデンでは親子法を10回改正し(38~39頁)おり、時代の状況にあわせて家族法を頻繁に変えていることが示されている。
父母(カップル)が不仲になると、共同養育を行うか否か、居所(子どもがどこに住むか)や面会(交流)をどうするかが課題となる。この紛争を取扱うのはスウエーデンでは地方裁判所であるが、ソーシャルワーカーが働く社会福祉サービス機関である、家族法事務所と連携して対応している。家族法事務所では、協調的対話(調停と同義の活動と思われる)、調査、コンタクトパーソン(面会交流時の付添人)の斡旋などを行っている(50頁)。
著者は、2004・2005年のストックホルムとイエーテボリの、地方裁判所における離別後の子どもの養育に関連した事件(1293件)のデータを収集している。そのうち詳細な係争経過記述のある「事例ケース」(131件)を分析対象として論稿を進めている。
スウエーデンでは「共同養育が子どもにとって最善という考え方を前提にして成り立っている」(157頁)。「両方の親が共同養育に反対する場合を除いて、共同養育に反する特別な事情あるときのみ、子どもの養育権は両親のうちの一方の親に任される」(157頁)。
「親子法において子どもは別居親と面会する権利を持つと明記され」(102頁)、「<面会は親の権利>から<子どもの権利>へと根本的な転換がなされた」(25頁)。子どもと親との面会交流が危険だと判断された場合には、コンタクトパーソン付の面会交流が裁判所によって定められたりしている。DVに関連して、「暴力行為が<過去の出来事>や<一過性の出来事>であり、現在被害者への影響は<ない>、あるいは<少ない>と判断される場合には、たとえ有罪判決が下されていても、それによって親が<養育者として不適格>とされたケースはなかった」(99頁)と記している。
スウエーデン研究に基づいて、今後のわが国の改革の方向性として、著者は主に以下の指摘を行っている。①わが国も共同親権、共同監護に向けた法改正を行うべきである。②面会交流がスムーズにいくように、公的な面会交流の場の提供と、コンタクトパーソンを付ける公的支援体制の整備。③家裁調査官制度を改革し、養育問題に関する調査機構の充実。④「両親との親密な交流が子どもの基本的ニーズである」(201頁)という意識を社会全体に広げる啓発活動を行う。
著者は、追手門学院大学社会学部の教授である。本書は、大阪市立大学に提出された学位論文を再構成して出版したものである。法律家の書いた本とはかなりトーンを異にしており、参考になることも多い。
(宮﨑昭夫)